東京地方裁判所 平成9年(ワ)10967号 判決 1998年4月23日
原告
中島潤
原告訴訟代理人弁護士
升永英俊
同
唐津真美
同
福井健策
被告
株式会社文藝春秋
右代表者代表取締役
安藤満
被告
平尾隆弘
外一名
被告ら訴訟代理人弁護士
古賀正義
同
吉川精一
同
喜田村洋一
同
林陽子
同
小野晶子
被告株式会社文藝春秋及び同平尾隆弘訴訟代理人弁護士
二関辰郎
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金五〇万円及びこれに対する平成八年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告らは、原告に対し、各自金二〇〇〇万円及びこれに対する平成八年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告株式会社文藝春秋(以下「被告会社」という。)及び同平尾隆弘(以下「被告平尾」という。)は、被告会社が発行する週刊誌「週刊文春」(以下単に「週刊文春」という。)に、一頁の二分の一の大きさで、別紙一記載の謝罪広告を、表題部の四文字は二〇ポイント活字、その他の文字は一〇ポイント活字をもって一回掲載せよ。
第二 事案の概要
本件は、原告が、被告会社が発行する週刊文春に掲載された記事によって名誉を毀損されたと主張して、被告会社、週刊文春の編集人である被告平尾及び右記事を執筆した被告溝口敦(以下「被告溝口」という。)に対して損害賠償を請求するとともに、被告会社及び被告平尾に対して謝罪広告の掲載を請求した事案である。
争点は、①右記事は、原告の名誉を毀損したといえるか、②右記事は、公共の利害に関する事実について、専ら公益を図る目的の下に掲載され、かつ、その内容が真実であるか、又は真実であると信ずるについて相当の理由があるか、③原告の受けた損害の程度である。
一 争いのない事実
1 当事者
(一) 原告は、医師であり、各種遊戯機械の製造等を目的とする株式会社である株式会社平和(以下「平和」という。)の非常勤取締役である。
(二) 被告会社は、雑誌、図書の印刷、発行及び販売等を目的とする株式会社であり、週刊文春を発行している。
被告平尾は、被告会社の従業員で、週刊文春の編集人である。
被告溝口は、フリーの記者であり、後記のとおり、週刊文春に掲載された、原告に関する記述を含む記事を執筆した。
2 週刊文春における原告に関する記述の存在
週刊文春一九九六(平成八)年七月四日号から同年一〇月一〇日号までの間、一三回にわたり、被告溝口の執筆による「パチンコ三〇兆円産業の暗部」と題する記事が連載された(以下「本件連載記事」という。)。そのうち、同誌一九九六(平成八)年八月二九日号(同月二一日発行)には、別紙二のとおり、「『平和』パチンコ台メーカー中島健吉会長は日本一の大金持」という表題で、本件連載記事の第八回(以下「本件記事」という。)が掲載された。本件記事の中には、「医師をやっている次男の潤氏(現、平和非常勤取締役)など、親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる、と息巻いたほどです。」という記述(以下「本件記述」という。)が存在する。
二 当事者の主張
1 原告の主張
(一) 本件記述による名誉毀損の成立
本件記述は、「原告が『親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる。』と息巻いた」という事実を摘示したものであって、一般読者は、原告がそのような発言をした事実が存在したという印象を受けるものであるところ、一般読者が、右発言を、父親である平和の代表取締役中島健吉(以下「健吉」という。)に対する感情を示すものであると理解するとしても、親に対する敬愛の念を尊重する社会においては、父親を殺すという発言をすることは、実際に殺害の意図を有しているか否かにかかわらず、社会的に非難されるべき行為であるから、本件記述によって、原告の社会的評価は低下したというべきである。また、本件記述によって、一般読者は、医師である原告には、患者の医師に対する信頼の根本である生命尊重という倫理感が全く欠如しているとの印象を受けるのであって、医師が日常の治療行為で用いている注射が殺害の具体的手段として明示されていることとあいまって、本件記述により、原告は、前記のような一般人としての社会的評価のみならず、医師としての社会的評価も低下したものである。
(二) 違法性ないし責任の阻却事由の不存在
(1) 被告らも認めるとおり、本件記述は健吉の家庭内の紛争に関するものであり、たとえ健吉が平和という上場会社のオーナーであっても、これはあくまでプライベートな事柄に係るものであるから、公共の利害に関する事実であるということはできない。
また、仮に、被告らの主張するように、本件連載記事が、パチンコ業界の抱える問題点を報じようという目的によって執筆、掲載されたものであるとしても、本件記述を含む本件記事は、他の本件連載記事とは全く異質で、パチンコ業界の抱える問題点とは無関係な内容であるから、本件記事が専ら公益を図る目的の下に掲載されたということはできない。
(2) 本件記述に摘示された事実は真実でない。すなわち、原告は、「親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる。」と息巻いたことはない。
(3) 被告溝口は、本件記述に関し、平和の横浜営業所長であった重光進こと辛進(以下「重光」という。)に取材をしただけであり、一切裏付け取材をしていない上、重光も原告の発言を直接は聞いていないというのであるから、被告らにおいて、本件記述で摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があったとはいえない。
(三) 責任
(1) 被告溝口は、原告の名誉を毀損した本件記述の執筆者として、民法七〇九条、七一〇条により、原告が受けた損害を賠償する責任がある。
(2) 被告平尾は、週刊文春の編集人として本件記述を含む本件記事の編集に従事し、原告の名誉を毀損したのであるから、民法七〇九条、七一〇条により、原告が受けた損害を賠償する責任がある。
(3) 被告会社は、被用者である被告平尾の(2)の不法行為について、民法七一五条により、原告が受けた損害を賠償する責任がある。
(四) 損害
(1) 本件記述によって、原告の社会的評価は著しく低下した。原告が受けた精神的損害は、金銭に評価して二〇〇〇万円を下らない。
(2) さらに、原告の名誉を回復するためには、被告会社及び被告平尾において、週刊文春に別紙一記載の謝罪広告を掲載することが必要不可欠である。
2 被告らの主張
(一) 本件記述による名誉毀損の不成立
(1) 本件記述が原告の社会的評価を低下させるか否かを判断するに当たっては、本件記述だけでなく、本件記事、さらには本件連載記事全体を通して判断するのが相当であるところ、本件連載記事は、パチンコが三〇兆円産業と言われ、完全に市民権を得ていると言われているが、様々なマイナス面や批判があることから、パチンユ業界の現況をルポしようとしたものであり、パチンコ業界を様々な角度から点検している。そのような本件連載記事全体からみれば、原告が名誉毀損であると指摘する本件記述は、内容も末梢的であり、量もわずかであって、一般読者が強く記憶にとどめるとは考えられないから、原告の社会的評価を低下させることはないというべきである。
(2) 一般に、どんな人でも、感情が高ぶったときには、普段では使わないような強い言葉を用いて激しい表現をすることがあるから、「ある人が興奮して普段では使わないような強い表現をした」という記述があっても、それ自体では、対象者の社会的評価を低下させることはない。
本件記述は、健吉が平和の株式をセガ・エンタープライゼス(以下「セガ」という。)に売却する計画を進めていたことについて、原告を含む健吉の子供たちが危機感をもって強硬に反対し、右の計画の中心であった平和の副社長石原勲(以下「石原」という。)を追放しようとしていたという、本件記事の文脈の中で理解されるべきである。すなわち、本件記述は、原告が、平和の株式売却をめぐる健吉との確執の中で、危機感から感情が高ぶって「親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる。」と息巻いたということであって、一般読者としては、「原告が激昂しており、激昂するとこんな言葉も使う」という意味としてしか理解しないのであるから、一般人としてであれ、医師としてであれ、原告の社会的評価は低下しない。
(二) 違法性ないし責任の阻却事由
(1) 本件記事は、パチンコ業界の中で最も強い立場にいると言われるパチンコ台メーカーのトップの座にある平和を扱い、セガへの株式売却の話をめぐって会社内と健吉の家庭内で紛争が生じたことを報じており、本件記述は、右紛争の中での原告の発言に言及したものである。これは、上場会社のあり方、特にオーナー経営者の方針が会社役員ないし家族と異なった場合の上場会社のあり方に関わるものであり、プライベートなものではないから、公共の利害に関する事実というべきである。
また、本件記事は、パチンコ業界の抱える問題点を報じようとしたもので、被告らは、原告とは何ら個人的な利害関係はなく、原告を誹謗中傷する意図なども有していなかったのであるから、それは専ら公益を図る目的の下で執筆、掲載されたというべきである。
(2) 本件記述に摘示された事実は、以下のとおり真実である。
原告を含む健吉の子供たちは、いずれも平和ないし関連会社の要職に就き、いずれ平和の経営権を自分たちが引き継ぐことになると考えていたが、健吉は、その所有する平和の株式(発行済み株式の五〇パーセント以上)をセガに売却する計画を立て、平成四年一一月以降にはこれを実行しようとしていた。平和の中で、この計画を中心となって進めていたのが石原であった。
原告を含む健吉の子供たちは、右株式売却に反対することとし、このために平和の古参社員も協力することにした。健吉の子供たちの側に付いていたのは、常務の石橋保彦(以下「石橋」という。)、社長室長の渡辺秀男、重光、東京支社長の小美濃日出男こと小美濃秀男などであり、特に原告に対してアドバイスをしていたのは石橋であった。原告は、当時、平和の関連会社である株式会社新効の社長であったが、石橋に会うため、上野にある平和の営業本部によく顔を出していた。
このような中で、原告は、平成五年夏から秋にかけて、石橋に対し、「親父(健吉)がこれ以上石原に騙されているのなら、俺が注射をして殺してやる」という発言を繰り返した。石橋は、健吉の子供たちを支持するグループが頻繁に開催していた会合で、「健吉の次男である原告も、株式の売却を阻止しようと堅く決心している。」という決意のほどを、原告の声を直接に聞いていない参加者に伝えるため、右発言を何回も披露した。
(3) 本件記事を執筆するに当たり、被告溝口は、重光に対して取材を行った。右取材の中で、重光は、被告溝口に対し、原告が、「親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる。」と言ったことを石橋から聞かされたことがあり、その後、重光自身も、原告との電話の中で、右発言を前提とする会話をしたことを告げた。重光の発言は全体的に自然で、客観的事実とも符合しており、同人があえて虚偽の事実を述べる理由も全く見当たらなかったので、被告溝口はこれを信用した。被告溝口は、石橋ないし原告に対する反対取材はしなかったが、本件記述においてこれは必要なかったというべきであり、重光の経歴、平和での地位、平和及び中島家の内紛、石原追放を目指す中で重光の果たした役割等を考えれば、被告溝口において、これを真実と信ずるについては、相当の理由を有していたというべきである。
(三) 責任及び損害について
否認し、争う。
第三 当裁判所の判断
一 本件記述による名誉致損の成否について
本件記述は、「原告が『親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる。』と息巻いた」という事実を摘示したものであり、原告が医師として紹介されていることとあいまって、一般読者は、そのような事実が現実に存在し、さらに、そのような発言をしたとされた原告について、医師という職業の自覚を欠いた倫理感のない人間であるという印象を受けるというべきであるから、本件記述は、原告の社会的評価を低下させるものというべきである。
この点について、被告らは、一般読者は、「原告が激昂しており、激昂するとこんな言葉を使う」という程度の意味としてしか理解しないから、原告の社会的評価は低下しないと主張する。
確かに、本件記述は、健吉が平和の株式をセガに売却しようとしていたときに、原告を含む子供たちが大変な危機感を持っていたという文脈の中にあり、「息巻いた」という表現が用いられていることから、原告が激昂していたことを示すための文章であると考えることができるが、右記述には、「注射して」と具体的な手段が明示されているのであって、一般読者は、原告が激昂しており、激昂するとこんな言葉も使うという意味にとどまらず、医師である原告が、職業行為で用いる用具である注射という具体的手段を明示して、自分の父親を殺害するなどと発言したという意味として理解し、前述のような印象を受けるものというべきであり、これによって、原告の社会的評価は、その程度は別として低下するといわざるを得ないから、被告らの右主張は理由がない。
二 違法性ないし責任阻却事由の存否について
本件記述が原告の名誉を毀損することは前認定のとおりであるが、名誉権の保護と表現の自由の保障との調和を図る見地から、報道、出版等の表現行為により人の社会的評価が低下することになった場合でも、それが公共の利害に関する事実で、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、当該事実が真実であると証明されたときにはその表現行為には違法性がなく、また、右事実が真実であることが証明されなくとも、行為者がそれを真実であると信ずるにつき相当の理由があるときは、その表現行為には故意又は過失がなく、名誉毀損による不法行為は成立しないものと解するのが相当である。
そこで、本件記述で摘示された事実が真実であるか否か、真実でなかったとしても、それを真実であると信ずるにつき相当の理由があったか否かについて検討する。
1 本件記述で摘示された事実の真実性
証人重光は、原告が、石橋に対し、「会長(健吉)が石原に騙されているので、なかなか分かってもらえないので、頭がおかしくなっているので、もしそれで分かってもらえなかったら注射で殺してもいいんだ。」というような、本件記述で摘示されたのと同趣旨の発言をしていたことを、石橋から複数回聞いたと証言する(重光証人調書一五、一六頁)。
しかし、右証言によっても、重光は、原告の発言を直接聞いてはいないのであるから、その信用性は低いといわざるを得ない上、原告は本件発言をしたことはないと供述しており、証人石橋も、原告が本件記述で摘示されたような発言をしたことはないこと、及び、重光に対し、原告がそのような発言をしたと話したことはないことを供述していること(石橋証人調書六、七頁)に照らすと、重光の前記証言は採用することができず、他に原告が本件記述で摘示されたような発言をしたことを認めるに足りる証拠はない。
また、重光は、平成六年一二月一〇日ころ、原告が本件記述のような発言をしたことについて、原告に対し、電話で、注射で親を殺すというようなことを平気で言うような人の話なんか聞けないと言ったと証言する(重光証人調書二五、二六頁)が、甲第三七号証及び原告本人尋問の結果に照らし、採用できない。
したがって、本件記述で摘示された事実が真実であることが証明されたとはいえない。
2 本件記述で摘示された事実を真実と信ずるに足りる相当性
(一) 乙第七号証、証人重光の証言及び被告溝口本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告溝口は、本件連載記事の執筆のための取材の一環として、平成八年八月一日、東京都の赤坂東急ホテルにおいて重光と会い、約一時間四〇分にわたり、健吉が保有する平和の株式数、同人の問題点、同年二月に重光外二名が平和を被告として提起した雇用関係存在確認訴訟の状況、健吉が平和の株式を売却する動きがあることなどを聞いた。
さらに、被告溝口は、同年八月一二日、東京都の「小田島」という店において、重光に対する二度目の取材を行い、前記訴訟の裁判記録や平和に関する報道記事など借り受けた。
(2) 被告溝口は、右の二回の取材の中で、重光から、原告が「親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる。」というようなことを言って息巻いたことを石橋から聞いたという話や、重光が、平成六年一二月上旬、原告に「親を注射で殺すと言うような人の言うことなんか聞けない。」と言ったのに対し、原告が「そのような発言はしていない。」などと否定することはなかったという話を聞いた。
(3) 被告溝口は、右取材結果を基に、本件記述を含む本件記事を執筆した。
(二) 被告溝口は、右認定の取材により、健吉が平和の株式をセガに売却しようとしており、これに対して、原告を含む健吉の子供たちや多くの取締役、幹部社員などが一斉に反発していて、健吉と子供たちとの関係が抜き差しならない段階まで来ていたという認識を持ち、そのような状況の下で、「原告が『親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる。』と息巻いた」というのは、対立する当事者としてありがちな反応で、特に不自然とは思えないと考え、また、重光が信用できる者だという印象を抱いたため、同人の話を真実と考えたというのであり、被告らは、これをもって、本件記述に摘示された事実が真実であると信ずるについて相当の理由があると主張する。
しかしながら、本件記事の中の本件記述を執筆するに当たっての被告溝口の取材は、重光からの二回にわたる聞き取りだけであって、右聞き取りにおける重光の話によっても、原告の前記発言を聞いたのは石橋であり、重光がこれを直接聞いたということではないから、その信用性は高いものとはいえず、また、平成六年一二月上旬の重光と原告との電話での会話についても、それ自体から、原告が前記発言をしたと推測するには不十分である。その上、被告溝口において、原告及び石橋らに対する裏付け取材は、比較的容易に行うことができたと考えられるところ、被告溝口は、前記発言をしたとされる原告はもちろん、重光の情報源で、前記発言を直接聞いたとされる石橋に対しても、何ら裏付け取材をしていないのである。
(三) 以上によれば、被告溝口は、十分な裏付けもなく、単に重光の話を信じたというにすぎず、右認定の取材活動の下では、同被告において、本件記述で摘示された事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があったということはできない。
また、被告平尾についても、被告溝口同様、本件記述で摘示された事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があったとはいえない。
3 まとめ
したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告溝口及び同平尾の原告に対する名誉毀損について、違法性ないし責任は阻却されない。
三 責任原因
被告溝口は、原告の名誉を毀損した本件記述の執筆者として、被告平尾は、本件記述を含む本件記事が掲載された週刊文春の編集人として、それぞれ、民法七〇九条、七一〇条により、原告が受けた損害を賠償する責任がある。
被告会社は、被用者である被告平尾の右不法行為について、民法七一五条により、原告が受けた損害を賠償する責任がある。
四 原告の損害について
前認定のとおり、本件記述は、「原告が『親父が会社を売るつもりなら、俺が注射して殺してやる』と息巻いた」という事実を摘示することで原告の名誉を毀損するものではあるが、原告が父親(健吉)を殺害する意図を実際に持っていたという印象を一般読者に与えるものではない(これについては当事者間に争いがない。)。また、本件記述は、平和の株式売却をめぐって、健吉と、原告を含む子供たちとの間で抜き差しならない状況があったということを示す一つのエピソードとして書かれ、それも五段組の一頁の中の三段目の六行分という短いものであるから、一般読者に与える印象としては、さほど強いものではないと考えられる。甲第三七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、多くの知人から本件記述について言及され、平成九年九月二七日になっても本件記述を覚えていた者がいたことが認められるが、それはまさに原告と親しくしていた者だったからと考えられ、それ以外の一般人について必ずしも妥当するものではないというべきである。
以上の事情を考慮すると、原告が本件の名誉毀損によって受けた精神的損害の賠償額としては五〇万円が相当であり、また、原告の名誉を回復するために、被告会社及び被告平尾において謝罪広告を掲載することまでは必要ないというべきである。
第四 結論
よって、原告の請求は、被告らに対し各自金五〇万円の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官山﨑恒 裁判官見米正 裁判官品田幸男)
別紙<省略>